大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和26年(う)420号 判決

控訴人 被告人 江川国雄

弁護人 広井薫

検察官 樋口直吉関与

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

被告人を懲役二年に処する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

被告人及び弁護人の各控訴趣意は別紙のとおりである。

右弁護人の控訴趣意第一点について。

刑事訴訟規則百二百十八条によれば地方裁判所家庭裁判所又は簡易裁判所においては判決書に起訴状に記載された公訴事実又は訴因若くは罰条を追加若くは変更する書面に記載された事実を引用することができるのであるしかして引用する場合は単に右引用のなされたことが判決書に明白に記載されることを以て足り所論の如く更に其の書面の謄本、副本又は写本を添付するの必要は毫もない又引用する部分はその記載の全部たると一部たるとを問はないことは勿論一部を訂正変更し又は削除附加して引用することもできるとは解せられるけれども判決書における右引用の記載は引用された起訴状等の記載と相俟つて一見容易に罪となるべき事実を明確に把握し得るに足る程度のものでなければならないと考える従つて右訂正、削除、附加等が多岐に亘り罪となるべき事実を把握するに多少とも労苦を伴うような引用の仕方は到底妥当とは言えないのみならず延いては罪となるべき事実を不明確ならしめ判決に理由を附さないか又は理由にくいちがいを生じ判決破棄の理由となるを保しがたいのであるこれを本件について検討して見ると原判決には

「罪となるべき事実の摘示については起訴状公訴事実を引用する但し昭和二十六年三月十五日附起訴状公訴事実中第一の(一)(二)を次の通り変更判示する

第一被告人江川国雄は……

(一)昭和二十五年二月四日……

(二)同年二月二十日……

次に昭和二十六年三月三日附起訴状公訴事実冐頭並に第一、第二、第三を夫れ夫れ罪となるべき事実の判示冐頭並に第一、第二、第三とし同年三月十五日附起訴状冐頭並に第(一)(二)(三)(四)(五)(六)を夫れ夫れ罪となるべき事実判示冐頭並に第四の(一)(二)第五の(一)(二)(三)(四)(五)(六)として引用する」と記載されているのであるが右の記載文言によれば原判決に記載された罪となるべき事実は

一、本件昭和二十六年三月三日附及び同年同月十五日附各起訴状記載の公訴事実

一、昭和二十六年三月十五日附起訴状中公訴事実第一の(一)(二)を変更判示した事実

一、昭和二十六年三月三日附起訴状記載の公訴事実

一、昭和二十六年三月十五日附起訴状の冐頭並びに第一(一)乃至(六)記載の公訴事実

となるのであつて犯罪事実の記載が前後重復するのみならず原審第一回公判期日において本件公訴事実の字句の一部が訂正されており且又他に公訴事実を変更判示すべき部分もあるのであるから起訴状記載と相俟つも罪となるべき事実を明確に把握することができない結局原判決には理由を附さない違法があると謂わねばならないので論旨は理由があり破棄を免かれない

しかして被告人の控訴趣意及び弁護人の右控訴趣意第二点については後記破棄自判の項において自から判断するところであるから茲にこれを省略し刑事訴訟法第三百九十七条により 原判決中被告人に関する部分を破棄し同法第四百条但書に則り更に判決する

罪となるべき事実

被告人は夕張市本町四丁目夕張市役所会計課経理係として消耗品等の調達並びに出納保管等の業務に従事していたもの 原審相被告人大中善光は同市本町四丁目大中印刷所の外交並びに会計経理関係一切を処理し 紙の売買印刷、紙の切断等の業務に従事していた者原審相被告人岡部幸夫は北海道空知郡奈井江町字奈井江六番地財団法人北海道拓明興社外交員として同社扱いの箒、雑巾、はたき等荒物雑貨類の販売集金等の業務に従事していたものであるところ被告人江川国雄は

第一単独で

(一)昭和二十五年二月四日頃夕張市役所において右拓明興社より同市役所に同日頃雑巾千枚一枚につき六円五十銭合計金六千五百円及び箒二百本一本百二十円合計金二万四千円総計三万五百円として納入されたのを奇貨とし 其の単価を偽り真実の代金との差額を詐取せんことを企て 之等代金を雑巾一枚につき十一円百枚金千百円同雑巾一枚につき十一円九百枚金九千九百円箒一本につき百五十円二百本金三万円総計四万千円である旨の夕張市長北島光盛並びに同市収入役釣井外次郎宛 前記拓明興社社長梅沢喜久作名義の虚偽の請求受領書三通を作成その頃之が代金支払及び其の決裁の各手続をなし 同市助役本間好男同市会計課長山口久伊同課経理係長中田某等をして右物品の単価及び金額はいずれも正当なものと誤信させ 之が代金支出命令の決裁をなさしめ因つて同年三月三日頃同市役所に情を知らない右市役所出納係平野五郎をして その代金名下に合計金四万千円を北海道拓殖銀行夕張支店を通じて同支店発行の右同額額面の小切手をもつて右拓明興社に送金せしめ その頃右拓明興社において情を知らない同社専務理事立岡保夫をしてこれを受取らしめ右金四万千円と金三万五百円との差額金一万五百円につき騙取の目的を遂げ

(二)同年二月二十日前記市役所において前記拓明興社より 同市役所に箒二百本一本につき百二十円合計金二万四千円として納入されたのを奇貨として其の単価を偽り真実の代金との差額を詐取せんことを企て 之等代金を箒一本につき百四十円二百本金二万八千円である旨の夕張市長北島光盛並びに同市収入役釣井外次郎宛前記拓明興社社長梅沢喜久作名義の 虚偽の請求受領書一通を作成した上其の頃これが代金支払及び其の決裁の各手続をなし同市助役本間好男同市会計課長山口久伊同課経理係長中田某をして右物品の単価及び金額はいずれも正当なものと誤信させ 之が代金支出命令の決裁をなさしめ因つて同年三月三日頃同市役所において情を知らない同市役所出納係平野五郎をして その代金名下に金二万八千円を北海道拓殖銀行夕張支店を通じて同支店発行の右同額額面の小切手をもつて右拓明興社に送金せしめ其の頃情を知らない同社専務理事立岡保夫をして該金を受領せしめ右金二万八千円と金二万四千円との差額金四千円につき騙取の目的を遂げ

(三)昭和二十六年一月二十四日頃前記大中印刷所において自己の業務上保管に係る 夕張市役所所有の大判更紙八連を擅に原審相被告人大中善光に代金七千二百円で売却以て業務上これを横領し

第二原審相被告人大中善光と共謀の上

(一)昭和二十五年八月二十七日頃前記大中印刷所事務室において同年六月三十日頃 同印刷所より夕張市役所に大判更紙十三連代金一万四千三百円相当を売却納入したのを奇貨とし取引数量を偽り真実の代金との差領を詐取せんことを企て 大判更紙五十連代金五万五千円相当を売却納入した旨の大中印刷所大中善光名義の夕張市長北島光盛並びに 同市収入役釣井外次郎宛虚偽内容の請求受領書一通を作成し翌二十八日頃右市役所において被告人江川国雄は右虚偽内容の請求受領書一通に大判更紙五十連は間違い無く納入せられた旨の虚偽の納入済証明をなし 右納入は正当である旨裝つてこれが代金支払の手続を取り同年九月七日頃同市役所会計課経理係長高柳茂同市助役本間好男同市収入役釣井外次郎をして 右大判更紙五十連は右大中印刷所より間違なく納入済みである旨誤信させ これが代金支出命令の決裁をなさしめ因つて同日原審相被告人大中善光は同市役所において出納員平野五郎より更紙五十連の代金名下に現金五万五千円の交付を受け 前記一万四千三百円との差額金四万七百円の騙取を遂げ

(二)同年十二月十三日頃右大中印刷所事務室において 同印刷所が夕張市役所より同市役所所有の大判更紙を預りこれを切断して同市第一小学校外二校に納入することになつたのを奇貨とし 右大中印刷所所有の半紙判更紙を右各学校に売却納入した旨を偽裝して右市役所より其の代金名下に金円を詐取せんことを企て 同年十二月十三日に同印刷所より夕張市第一小学校に半紙判更紙四十締代金一万七千二百円真谷地小学校三締千三百九十円 夕張市第一中学校に半紙判更紙十締代金四千三百円相当を夫々納入した旨の大中印刷所大中善光名義夕張市長北島光盛並びに 同市収入役釣井外次郎宛虚偽内容の請求受領書二通を夫々作成し 翌十四日頃右市役所において被告人江川国雄は右虚偽内容の請求受領書二通に夫々大中印刷所より前記夕張市第一小学校外二校に夫々半紙更紙合計五十三締を売却納入せられた旨の虚偽の納入済証明を為して 右売却納入は正当なる旨裝いこれが代金支払の手続を取り 同年十二月二十五日頃同所会計課経理係長高柳茂同市助役本間好男同市収入役釣井外次郎等をして右半紙判更紙五十三締はいずれも右各学校に大中印刷所より売却納入せられたものである旨誤信させ これが代金支出命令の決裁をなさしめ 因つて同月二十八日頃原審相被告人大中善光は同市役所において同市役所出納員平野五郎より更紙五十三締の代金名下に現金二万二千七百九十円の交付を受けてこれを騙取し

第三原審相被告人岡部幸夫と共謀の上

(一)昭和二十五年三月二十七日頃 前記拓明興社より夕張市役所に対し同年二月二十三日頃箒二百本一本につき百二十円合計金二万四千円同年三月十四日頃雑巾千枚一枚につき十円合計金一万円 同日頃箒一本につき百四十円合計金一万四千円総計金四万八千円で夫々売却納入されたのを奇貨とし 取引単価又は数量を偽り真実の代金との差額を詐取せんことを企て右箒二百本の分については一本につき百四十円合計代金二万八千円 右雑巾千枚の分については一枚十二円合計代金一万二千円右箒百本の分については数量百九十本合計代金二万六千六百円となる旨の 夫々夕張市長北島光盛並びに同市収入役釣井外次郎宛財団法人拓明興社社長理事梅沢喜久作名義の虚偽の請求受領書三枚を作成した上 その頃同市役所において被告人江川国雄は右各請求受領書記載の単価数量金額等はいずれも正当なる旨裝つて これが代金支払の手続の為の回付及び決裁に出し同市助役本間好男佐藤某会計課経理係長高柳茂並びに同市収入役釣井外次郎等をして前記夫々の単価、金額及び箒百九十本の納入は間違いないものと誤信させ これが各代金支出命令の決裁を為さしめ因つて同年四月十二日頃同市役所において原審相被告人岡部幸夫は同市役所出納係平野五郎より右箒等の代金名下に合計金六万六千六百円の交付を受け 前記金四万八千円との差額金一万八千六百円の騙取を遂げ

(二)同年五月八日頃夕張市役所において 前記拓明興社より右市役所に物品納入の事実がないのに同年四月七日座敷箒百本一本につき百四十円代金合計一万四千円及び同日頃座敷箒百本一本につき百四十円代金合計一万四千円 総計金二万八千円の夫々夕張市長北島光盛並びに同市収入役釣井外次郎宛前記拓明興社社長梅沢喜久作成名義の 虚偽の請求受領書二通を作成した上其の頃被告人江川国雄はこれが支払手続並びに決裁に出し同市役所助役本間好男並びに 同市収入役釣井外次郎等をして右請求受領書記載の物品納入があつたものと誤信させ これが代金支出命令の決裁を為さしめ因つて同年五月九日頃同市役所において原審相被告人岡部幸夫は右市役所出納員平野五郎より右代金名下に現金二万八千円の交付を受けてこれを騙取し

(三)同年六月八日頃夕張市役所において 前記拓明興社より夕張市役所に箒等の納入事実がないのに同年五月七日座敷箒七十本一本につき百四十円代金合計九千八百円及び同日座敷箒八十本一本につき百四十円代金合計金一万千二百円 総計金二万千円の夫々夕張市長北島光盛並びに 同市収入役釣井外次郎宛前記拓明興社社長梅沢喜久作成名義の虚偽の請求受領書二通を作成した上 其の頃被告人江川国雄はこれが支払の手続並びに決裁に出し同市会計課長山口久伊同市助役本間好男並びに同市収入役釣井外次郎等をして右請求受領書二通に記載の座敷箒計百五十本の納入があつたものと誤信させ これが代金支出命令の決裁をなさしめ 因つて同日頃同市役所において原審相被告人岡部幸雄は同市役所出納員平野五郎より右代金名下に現金二万千円の交付を受けてこれを騙取し

(四)同年七月二十四日頃夕張市役所において 前記拓明興社より同市役所に雑巾等の納入の事実がないのに同年五月十七日雑巾千枚一枚につき十二円 合計代金一万二千円同年五月二十一日座敷箒三百本一本につき百四十円代金合計四万二千円同日雑巾三百枚一枚につき十円合計代金三千円 同年六月三十日雑巾千枚一枚につき十二円合計代金一万二千円の夫々夕張市長北島光盛並びに同市収入役釣井外次郎宛前記拓明興社社長梅沢喜久作成名義の虚偽の請求受領書四通を作成し その頃これが支払の手続並びに決裁に出し右請求受領書四枚の中 前記五月十七日雑巾千枚金額一万二千円五月二十一日座敷箒三百本金額四万二千円及び同日雑巾三百枚金額三千円の夫々の分についてはその頃六月三十日雑巾千枚金額一万二千円の分について 同年九月四日乃至同月二十日頃迄の間に同市役所会計課長山口久伊同市助役本間好男並びに同市収入役釣井外次郎更に 同市会計課経理係長高柳茂(六月三日の雑巾千枚のみ)等をして右夫々の請求受領書記載の雑巾並びに箒等は いずれも間違なく市役所に納入されたものと誤信させ これが代金支出命令の決裁をなさしめ因つて原審相被告人岡部幸夫は同市役所において右市役所出納員平野五郎より同年七月二十九日頃 右五月十七日納入雑巾千枚分右五月二十一日納入座敷箒三百本分及び同日納入雑巾三百枚分の代金名下に合計金五万七千円 又同年九月二十二日頃右六月三十日納入雑巾千枚分の代金名下に現金一万二千円合計金六万九千円の交付を受けてこれを騙取し

(五)同年十月十二日頃前記市役所において右拓明興社より右市役所に対し 同年八月二十日頃箒百五十本一本につき百十円合計代金一万六千五百円が納入されたのを奇貨とし 取引数量を偽り真実の代金との差額を詐取せんことを企て同年八月十日頃座敷箒二百五十本が一本につき百二十円代金合計三万円で納入された旨の夕張市長北島光盛 並びに同市収入役釣井外次郎宛前記拓明興社社長梅沢喜久作成名義の虚偽の請求受領書一通を作成し その頃これが支払手続並びに決裁の為回付し同市助役本間好男同市会計課長山口久伊同課経理係長高柳茂並びに同市収入役釣井外次郎等をして 右請求受領書記載の箒二百五十本が納入されその単価並びに金額等は何れも間違いない旨誤信させ これが代金支払の決裁をなさしめ因つて同日同市役所において原審相被告人岡部幸夫は右箒代金名下に現金三万円の交付を受けて 右金一万六千五百円との差額金一万三千五百円の騙取を遂げ

(六)同年十一月二日頃前記市役所において右拓明興社より右市役所に箒或は雑巾等の納入の事実がないのに 同年九月四日座敷箒三百本一本につき百四十円合計代金四万二千円及び 同年十一月二日箒三百本一本につき百四十円合計代金四万二千円同日雑巾千枚一枚につき十一円合計代金一万千円二口計五万三千円が いづれも納入された旨の夕張市長北島光盛並びに同市収入役釣井外次郎宛前記拓明興社社長梅沢喜久作成名義の虚偽の請求受領書二通を作成し 其の頃これが支払手続及び決裁の為同市役所事務員小沢静子に回付し右請求受領書中同年九月四日納入座敷箒三百本金額四万二千円の分については 同年十一月七日頃乃至十一月十五日頃迄の間に又同年十一月二日納入箒三百本及び雑巾千枚計金五万三千円の分については 同年十一月二十九日頃乃至十二月四日頃迄の間に同市助役本間好男同佐藤某同市会計課長山口久伊同課経理係長高柳茂並びに 同市収入役釣井外次郎等をして右二通の請求受領書記載の物品は夫々何れも納入されたことが間違いないものと誤信させ これが代金支出命令の決裁をなさしめ 因つて同市役所において原審相被告人岡部幸夫は同市出納係員平野五郎より物品代名下に右九月四日納入座敷箒三百本の分については 同年十一月十五日頃現金四万二千円を更に右十一月二日納入箒及び雑巾の分については同年十二月四日現金五万三千円を夫々交付させてこれを騙取し

たものである

証拠の標目

判示全部の事実につき

一、原審第一回公判調書中の被告人江川国雄の供述記載

一、検察官作成の被告人江川国雄の第一乃至第四回各供述調書

一、司法警察員作成の被告人江川国雄の第一乃至第十四回各供述調書

一、司法警察員作成の釣井外次郎の第一、二回各供述調書

一、検察官作成の平野五郎の第一回供述調書

判示冐頭被告人江川国雄、原審相被告人大中善光、岡部幸夫の各職務地位につき

一、司法警察員作成の釣井外次郎の第一回供述調書

一、検察官作成の原審相被告人大中善光の供述調書

一、検察官作成の立岡保夫の第一回供述調書

判示第一の(一)の事実につき

一、釣井外次郎作成の顛末書(昭和二十五年二月二十五日附のものの内記録四十八丁、四十九丁、五十丁)三通

判示第一(一)(二)の各事実につき

一、押収に係る札幌地方裁判所昭和二十六年押第五十一号の証第八号戻入通知書及び領収証の存在

判示第一(三)の事実につき

一、司法警察員作成の釣井外次郎の第一回供述調書

判示第二(一)(二)の事実につき

一、原審第一回公判調書中の原審相被告人大中善光の供述記載

一、検察官作成の原審相被告人大中善光の供述調書

一、司法警察員作成の原審相被告人大中善光の被疑者第一、二回各供述調書

判示第二(一)の事実につき

一、押収に係る札幌地方裁判所岩見沢支部昭和二十六年押第五十一号の証第一号大中善光作成請求受領書(昭和二十五年八月二十七日附)の存在

判示第二(二)の事実につき

一、司法警察員作成の高柳茂の供述書

一、高柳茂作成の昭和二十六年二月二十一日附顛末書二通

一、押収に係る札幌地方裁判所岩見沢支部昭和二十六年押第五十一号の証第二〇号の一大中善光作成の請求受領書 及び同号の二同上人作成の請求受領書の各存在

判示第三(一)乃至(六)の各事実につき

一、原審第一回公判調書中原審相被告人岡部幸夫の供述記載

一、検察官作成の原審相被告人岡部幸夫の第一回乃至第四回各供述調書

一、司法警察員作成の原審相被告人岡部幸夫の第一乃至第七回各供述調書

一、押収に係る札幌地方裁判所岩見沢支部昭和二十六年押第五十一号の証第五号各請求受領書の存在

一、検察官及び司法警察員作成の立岡保夫の各第一回供述調書

一、立岡保夫作成の夕張市役所取引一覧表

法令の適用

被告人江川国雄の判示所為中詐欺の点は刑法第二百四十六条第一項(共謀の点は同法第六十条)に業務上横領の点は 同法第二百五十三条に各該当するところ以上は 同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文第十条により犯情の最も重い判示第三の(六)の詐欺罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で 被告人江川国雄を懲役二年に処すべく刑事訴訟法第百八十一条第一項に則り当審における訴訟費用は全部被告人の負担とし主文のとおり判決する

(裁判長判事 黒田俊一 判事 鈴木進 判事 東徹)

弁護人広井薫の控訴趣意

第一点原判決ニハ罪トナルベキ事実ヲ示シテイナイ、違法デアル、原判決ニハ、罪トナルベキ事実ノ摘示ニツイテハ起訴状公訴事実ヲ引用スル、但シ昭和二十六年三月十五日附起訴状公訴事実中云々、次ニ昭和二十六年三月三日附起訴状公訴事実、冐頭並ニ第一、第二、第三ヲ夫レ夫レ罪トナルベキ事実ノ判示、冐頭並ニ第一第二、第三トシ、同年三月十五日附起訴状冐頭並ニ第一(一)(二)(三)(四)(五)(六)ヲ夫レ夫レ罪トナルベキ事実ノ判示、冐頭並ニ第四ノ(一)(二)第五ノ(一)(二)(三)(四)(五)(六)トシテ引用スルトアツテ、別ニ起訴状ノ謄本、副本、其他ノ写本ヲ添付シテ居ナイ、而モ其記載ニハ錯誤、脱漏等アリト推測セラレ、其記載ハ本件ノ如ク複雑多岐ニ亘ル事案ニ於ケル罪トナルベキ事実ヲ示シタモノデハナイノデアル

抑モ判決ハ文化価値ノ一ノ態様ナル法律価値ニ関係セシメテ一面的事件即チ問題ニ上リシ案件ノ具体的内容ヲ明カナラシムルコトヲ其使命トスル、サレバ判決ニ於テ指示セラルベキ事実ハ事件ノ叙述ガ法律的価値ニ関係セシメラルベキコトニ制約サレルノデアル、刑事事件ニ付テ之ヲ論ズルトキハ、先ヅ犯罪ノ構成ニ必要ナル事項ヲ明カニシ、次ニ刑ノ量定ノ要件トナルベキ事項ヲ明カニセネバナラヌ、前者ニ依テ其事案ハ適用セラルベキ法条ガ確定スル、ソウシテ後者ニ依テ其法条ニ規定セラレル範囲内ニ於テノ刑ノ具体的量定ガ可能トナルノデアル、ソレニハ事実ノ叙述ガ具体的ナ一面的ナ事実ソノモノヲ明カニシ判決ガ一定ノ事実ニ対シテ下サレタモノナルコトヲ明カニスルコトデアル、一面的ナ一定ノ事実ニ対スルノデナケレバ具体的ナ一定ノ刑ヲ量定スルコトハデキナイノデアル

判決ハ事実ノ挙示ニ於テ、ヒトリ其具体性ヲ明カニスルニ止マラズ更ニ其法律価値ニ関スル要点ヲ明カニセネバナラナイ、此意味ニ於テ量刑ノ基礎トナルベキ事実モ亦其判決ニ於テ明カニセラレネバナラヌ、量刑ハ法律ノ精神ノ命ズルトコロニ従ツテ為サレネバナラヌコトハ明白デアル、ソウシテ此意味ニ於テ量刑ハ事実問題ニアラズシテ法律問題デアル、従テ量刑ノ理由ヲ明カニシナイ判決ハ必要ナ理由ヲ完ウシナイモノト謂ハネバナラヌ

原判決ハ以上判決ノ使命ニ反シ罪トナルベキ事実ヲ示シテ居ナイモノデアル、破棄ヲ免レナイ

(その他の控訴趣意は省略する。)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例